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小野絵里華さん「川辺りを歩く」「お出かけ」(よかった詩さがしノート11)

16日のLive「静かに狂う夜」@国分寺Gieeで共演する詩人の詩特集その3。小野絵里華さん。
エリカさんの詩については、こないだ「喋りすぎた朝」(「ユリイカ」2011年3月号)という
最新の作品について書いたので、今日ははんたいに初期の作品をご紹介します。

そのまえに。さいきん全国迷子詩人連盟(ZMS)というのが発足されたけれど、
(会長はブリングルさん、理事は生熊源一さん。)
詩人はたいてい迷子で、エリカさんの詩の主人公、そしてエリカさんご自身も、
いつもそうとう迷子になっておられる。
なので(かどうかはわからないけども、)基本、作品が長い。
あっちへいったりこっちへ来たりして、なかなか辿りつかない。
(そもそも目的地がどこかもわかっておられないのかもしれない。)
前回、大崎清夏さんの詩の歩行のたしかな足取りの魅力を書いたけれど、
エリカさんの場合ははんたいに、そんな迷子(しかも筋金入りの、ど迷子!)
ならでは寄り道と脱線だらけの歩行の魅力。
「川辺りを歩く」(「ユリイカ」2009年3月号)という初期のみずみずしい作品から。

 いつか寄り道した日
 水面は金色の麦畑
 空腹な光は水をなでてた
 瞬間の風景画に
 お昼が溶け込んでいく
 振り返ったまま
 もう首が固まってしまうくらい
 振り返ったまま
 何にお別れを言ったのか忘れてしまうくらい
 振り返ったまま
 迷い子は立ちつくしている
 

寄り道したから出会えたうつくしい「瞬間の風景画」。
でもそれがうつくしいゆえに、またよけいに迷子になってしまう。
(「振り返ったまま」のリフレインによって、
「立ちつくしている」ことを感覚的に表現しておられて、みごと!)

エリカさんの詩をいくつか拝読していると、あるパターンがあることに気付く。
主人公が鬱屈した感情をかかえて部屋でもんもんとしている、
やがてどうにも抱えきれなくなって、おもむろに部屋をとびだす歩きだす、
あてもなく、それでもあいかわらずもんもんとしているのだけど、
歩行しているから、当然いろいろなものに出会う、
いろいろな風景に出会う、感情が、詩が、歩行する移ろっていく。
「お出かけ」(「ユリイカ」2009年2月号)は初期の彼女の作品のなかで、
わたしのとりわけお気に入りの一篇。冒頭、

 わたしから遠く離れたせかいで

      *

 ひかりが留まる
 柔らかなフローリング
 たったひとつの落し物を
 見つけようとして
 昨日の昼寝を繰り返す

      *

 出かけたばかりの私たちは
 人ごみのなか迷子になって
 お互いの手も忘れてしまった


と、ここでも「出かけたばかり」なのにさっそく迷子になってしまう。
この詩は、こんな感じで、「*」あるいは「→」をはさみながら、
みじかい断片的なシーンをかさねていく、
アート映画や映像作品をたくさん見られている
エリカさんの作品は、とても映画/映像的と、いつもおもう。
これもカット割りとか場面転換とか、アート映画のような雰囲気があるのだけど、
いま引用した部分の「柔らかなフローリングに留まるひかり」とか、
あとに出てくる「ファーストフードの袋にもぐるボロ犬」とか、
はっとするようなシーンがいくつもでてくる。

ところで、出かけたばかりでさっそく迷子になった「私たち」は、
やがてともかくも電車に乗ったよう。

 路線図も読めない私たちは
 ぐだぐだと連想ゲームにふけりながら
 永遠に廻る山の手線の席で
 過ぎ去った午後四時の嘆息を
 思いかえす
 いつだって
 私らは何かを忘れてしまい
 いつだって
 私らは何かに満ちている

      君は
      降りよう、と
      突然手をとった

 ああそうか
 これが君の手だった


この詩では、「ここはもはや/せかいではない」がリフレインされるのだけど、
彼女の詩は、わたしたちがそれと気付かずに持って守ってしまうじぶんの「せかい」を
なんども失いながら、失いつづけることによって逆に満ちていく何か、
(じぶんのせかいを失うことは、たぶん、他者のせかいを受け入れようとすること、)
それをどんなに傷ついてもくりかえす強さとしなやかさがある。
(そして、もちろん痛みや哀しみがある。だから、歓びもやさしさもある。)

 今日一日のメッセージを思い出して
 もはや私ではないせかいで
 五時の鐘が鳴るまで
 私たちは見つけた物を数えあおう

      *

 電車の窓には
 もはやせかいではない
 今日の光が反射している


だから、この詩のさいご、移動しつづける電車の、
窓に反射するこのせかいの誰にも何にも属さないただの光が、
それゆえあまりにもきれいで、
わたしの網膜にまでその反射がおよんで、
まぶしくて、わたしはふいに泣きたくなる。
by neko-tree | 2011-04-14 00:51


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