だいたいそちらのほうへ行くだろう、という方角に向かうバスに出鱈目に乗ったら、
20度くらい違う方角へ行ってしまって、強制的にそこで降りなければならない、 終着のバス停は「東大構内」だった。 東大構内を歩いていると、すこし優秀になったような錯覚におちいる。 いちばん近くの門をでたら、立原道造記念館の前だった。 丁度、鞄の中に吉行理恵さんの本がはいっていて、 立原道造を敬愛していた、理恵さんがつれてきてくれたようにおもう。 * 「温かい星」 『更級日記』の作者、菅原孝標(たかすえ)の女(むすめ)が十五歳のとき、愛らしい猫が現われ、文学好きの姉とともに隠れて飼っていた。姉は、猫が前年に亡くなった侍従の大納言の御むすめの生れ変りだと夢に見た。その猫は身分の低い者が使う北の部屋を嫌う。火事になった時、猫は焼死した。 知人の猫も火事の時焼死した。猫は火に向かって行くと知人は言っていた。 孝標の女は不思議な夢を見る人だった。予知めいた夢を見たことが記されている。 私は旅に出ると、正夢を見る。目が覚めた時、砂埃の中を歩いて来たようなざらざらした感触なので、それと分る。知らない土地だと極度に緊張する。そのせいで正夢を見るのだろうか……。 昭和五十二年に女優の姉に誘われて、スイスに行くことにした。私は体調をくずし、ホテルの部屋で眠っていることが多かった。立て続けに不思議な夢を見た。 ボストンで事故死した知人(姉の親しい友だちの女優)が、「雲(私の猫)ちゃん元気?」と訊ねた。「大丈夫よ、すぐ帰るし」と私は答えた。「よかった」と微笑んだ。濃い緑の中を知人は白い服を着て、ふわふわと歩く。彼女のまわりに柔らかい清潔な光が揺れている。 夢の中には誰もいない。夢の中に不思議な声が流れてきた。「低い空で温かく輝く星になる……」 ベルンで少し■(からだ※PCで出ない表記)の具合が良くなったので、美術館に出掛け、クレーの絵をゆっくり眺めた。クレーは猫好きで、グレーの猫と暮していたそうだ。 帰国した時、私のグレーの猫雲は元気に迎えてくれたが、急におかしくなり、手術の直後に死んでしまった。脾臓が悪くなっていたのだ。 「手術します。家で待機していて下さい」と獣医に言われ、私が帰ろうとすると、台の上に寝かされた雲は優しい目でじっと私を見ていた。その時、夢の中で聴いた声を思い出した。「低い空で温かく輝く星になる……」。雲の目のことだったのだ。 死後も雲は夢の中に戻ってくる。先月も雲の夢を見た。私が雲に近付こうとすると、邪魔が入り、摑まえることが出来なかった。 * 理恵さんの、これはエッセイとして書かれて、発表された文章だけれど、散文にもかかわらず、そこににじみでている「詩」が、詩として書かれたものよりもかえって「詩」を感じさせるようにおもうのは、私だけだろうか。 ところで、京都で開催されていたクレーの大きな展覧会が、東京にも巡回してきた。クレーの絵が近くに来るたびに、見にいく。何年か前の、千葉市美でのクレーの個展は、「東洋への夢」と題された、クレーの東洋への憧憬をめぐっての展覧会で、ユニークな切り口で新鮮だった。その展覧会の、テキストも大変充実したカタログを、買ったものの、まだ読まないでいたことを、いま、おもいだした。
by neko-tree
| 2011-06-04 01:20
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暁方ミセイさんHP 橘上さんHP 相川さなえさんHP 亞GALLERY 【著者プロフィール】 はじめましての方、はじめまして。おひさしぶりの方、おひさしぶりです。 先日はどうもの方、先日はどうもです。いつもお世話になっている方、いつもお世話になっております。 カニエ・ナハです。詩っぽいのとか小説っぽいのとかエッセーっぽいのとか、書いてます。ローコスト&ローテクの現代美術もやってます。 【掲載情報】 2013年 ■「紙の花」(『詩×怪談』@法真寺にて配布) ■「リトルカーリー」(『未来回路5.0』) ■「Linda」(『ミルチァン』「モノクロサーカス」号) ■「Work in Progress」(『六本木詩人会』HP2月号) ■「Yang」(『六本木詩人会』HP12月/1月合併号) ■「Stella」(『ミルチァン』「LOVE&影」号) 2012年 ■「HORN」(『六本木詩人会』HP11月) ■「ARMSTRONG(s)」(『六本木詩人会』HP10月) ■「チゴイネル スパイラル」(Live「チゴイネル スパイラル」冊子) ■「Monica」(『ミルチァン』ワルツ号) ■「TiP!"30minutes"Red Corner」(『六本木詩人会』HP8月) ■「TiP!"30minutes"Blue Corner」(『六本木詩人会』HP8月) ■「TiP!Re-18」(『骨おりダンスっ』9号) ■「QSO VLT ALM」(『六本木詩人会HP7月』) ■「HA-HA」(『ブライアン・ヒップ』) ■「Bumrungrad Hospital(バムルンラード・ホスピタル)」(『六本木詩人会』HP6月) ■「待機(連作・ゼームス坂病院より)」(『ミルチァン』「待機」号) ■「WUPPERTAL PARK ANGEL (ヴッパタール・パーク・エンジェル)」(『六本木詩人会』HP5月) ■「TiP!の3歩進んで2歩下がる」(『骨おりダンスっ』8号) ■「マルクとベラの夢と花あるいはアポカリプスの午後」(『文學界』6月号) ■「小田原のどか meets カニエ・ナハ"GREEN ONION & GEORGE TEMPLE (Mar.11,2012-"」(『六本木詩人会』HP4月) ■「ホッチキス・パッション」(『トルタのアタリ』) ■「feat.小田原のどか"カニエ・ナハをむりえわする"」(『六本木詩人会』HP3月) ■「Ms.Underground」(『六本木詩人会』HP2月) ■「エレファント 他二篇」(『ユリイカ』2月号) ■「TiP! vs JK」(『骨おりダンスっ』7号) ■「ASPARAGUS OUT OF SEASON」(『六本木詩人会』HP1月) 2011年 ■「SALLE PLEYEL DRAWING(サル・プレイエル・ドローイング)」(『六本木詩人会』HP11月) ■「GIANT FIELD(or YES)」(『骨おりダンスっ』6号) ■「Winds of Christina , Songs of Lycoris(クリスティーナの風、リコリスの歌)」(『六本木詩人会』HP10月個) ■「猫と初恋(私の好きな詩人-吉行理恵)」(『詩客』HP) ■「曼荼羅ワンダーランド」(『骨おりダンスっ』5号) ■「This is a Pen!宣言文」(『骨おりダンスっ』5号) ■「猫と冥福」(『現代詩手帖』9月号) ■「Lights of Néstor , Ariel in the Dark(ネストールの光、アリエルの暗闇)」(『六本木詩人会』HP8月) ■「Nocturne No.4」(『六本木詩人会』HP7月) ■「Synapse/Niépce」(『詩客』7月1日号) ■「Scissormoon」(『六本木詩人会』HP6月) ■「骨伝導/骨舞踏/骨礼拝」(骨おりダンスっ課外活動『骨伝導』冊子) ■「鐘風庭」(橘上さん、山田亮太さんとのコラボ企画「ホラホラ、これが僕の骨だ、」内)」(『骨おりダンスっ』4号) ■「GOLCONDE」(『六本木詩人会』HP5月) ■「Ezra in Silence,Jingumae3-7-6(エズラの沈黙、神宮前3-7-6)」(『六本木詩人会』HP4月) ■「月時光」(詩誌『AVENUE』) ■「夜行同行(feat.暁方ミセイ)」(『FOLIE IN SILENCE & Hallelujah』) ■「Hallelujah TRANCElation Circle」(『FOLIE IN SILENCE & Hallelujah』) ■「ヴォルペルティンガーと、森の方舟」(『骨おりダンスっ』3号) ■「古民家二階」(『骨おりダンスっ』2号) ■「Spring Snowdome」(『骨おりダンスっ』創刊号) ■「二十億光年の十二月」(『現代詩手帖』2月号) ■「Vincent(The Circle of Confessions)」(『六本木詩人会』HP1月) ■「La Chant d'Amor(愛の唄。または悪人とは月明かりに踊るネクタイ/詩とは見えるものと見えないものの断絶。)」(『ユリイカ』1月号) 2010年 ■「Cole Porter Songbook」(『トルタの国語 冒険の書』) ■「パンゲア」(『未来回路2.0』) ■「アガルタ」(『六本木詩人会』HP11月) ■「Lycoris,Chieko,Helga,M.」 (『六本木詩人会』HP10月) ■「私はあなたの夢の中ですでに二度死んだ私は何度も死んで何度もあなたの夢の中で死につづけたい私はあなたの夢の中ですでに二度死んだ。 (free style(chance operation/improvisation(AM0:52,Sep.2,2108/AM5:18,Sep.9,2010/AM8:10,Sep.9,2208/AM2:15,Sep.6,2010/AM0:47,Sep.9,2010/PM5:09,Sep.7,2010」 (『六本木詩人会』HP9月) ■「散花/食花」 (「現代詩手帖」9月号) ■「どんな神さまであれ、あなたが神さまを信じるとき、信じるあなたを疑いなさい、そして、疑うあなたを信じなさい、否、疑うあなたを信じるあなたさえ疑いなさい、と、どんな神さまも信じない(あるいは疑わない)わたしは悪魔のごとく囁くわたしはいつか深い河になりたい(Varanasi,India,Aug.2007/Tokyo,Japan,July.2010/Tashkent,Uzbekistan,Aug.2010/Istanbul,Turkey,Aug.2010/Cappadocia,Turkey,Aug.2010」 (『六本木詩人会』HP8月) ■「耳を切る黄色い人の、森に祈りが降る星のことばになる。(ポスト印象派展のための四つの印象詩 (Chance Operation/Improvisation(AM9:03,Jul.13,2010/AM7:08,Jul.12,2010/AM5:15,Jul.13,2010/AM8:11,Jul.14,2010」 (『六本木詩人会』HP7月) ■「双樹 他二編」 (『現代詩手帖』7月号) ■「殴られる聖母M、あるいは「芸術は可能か?」と問いかける夜に浮かんだ3つのクエスチョンマークを帰結とする3つのセンテンスそして1つのエクスクラメーションマーク(…やがて沈黙S」 (『六本木詩人会』HP6月) ■「「いま」が歩行している「詩」が歩行している「世界」が歩行している。」 (『現代詩手帖』6月号) ■「あなたのカップにあたたかい、やさしいミルクが注がれて、だれかのいのちをはこんでく、夜明けにはまだ時間があります。それまでしばし、おやすみなさいルーシーさん。」 (『六本木詩人会』HP5月) ■「『1964年2月、ニューヨークに到着する日、朝5時に甲板に出て船が港に入るのを待ったのです。私たちの目に飛び込んできたのは、ダウンタウンの風景でした。絵はがきを見ているような、一生忘れられないものです』と回想する。この時クリストはジャンヌ=クロードに『気に入った?』と問いかけたという。『もちろん』という答えにクリストはすかさず、『すべては君のものだよ』と告げた。」 (『六本木詩人会』HP4月) ■「ルノワールは黒(ノワール)の画家である、としたときはじめてあなたの瞳にうつる色は何色。」 (『六本木詩人会』HP3月) ■「たとえばモナ・リザの肝臓のなかで、ちいさな赤い生命の木がたゆたゆとたゆたっていること。」 (『六本木詩人会』HP2月) ■「ここだよ」 (『現代詩手帖』2月号) ■「ありふれたあさのうた」 (『現代詩手帖』1月号) ■「明・民・泯・眠・明」 (『ユリイカ』1月号) 2009年 ■「犬童さんミショーさん土方さん庄野さん」 (『ユリイカ』12月号) ■「再見」 (『現代詩手帖』11月号) ■「後生」 (『ユリイカ』11月号) ■「フィルムノワール」 (『現代詩手帖』10月号) ■「あの子は永遠に咲きつづけるかのような生命感に満ちあふれて」 (『ユリイカ』9月号) ■「春眠」 (『現代詩手帖』8月号) ■「夜行」 (『ユリイカ』6月号) ※大型書店または図書館でバックナンバー読めるっぽいので、興味ある方はぜひ!読んでみていただけたらうれしいです!! ※感想などございましたら、 naha_kanie☆yahoo.co.jp(←お手数ですが、☆をアットマークに変えてください)まで、お気軽にメールください! 以前の記事
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