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町とススキ

 最初、世界に
 二七二六の重さで寝ころんだそう
 母親がいやに詳しく覚えててね
 ありがとうねほんと
 辛抱してくれて叩きたいってときも
 あったでしょいろいろあるもんそりゃそうよ
 おそらく母親が先にこの
 船をリタイヤするだろうから
 見越してね
 せりふを練習するわけ 心づもりとか
 なんだかんだあれしてね
 (宿久理花子さん「暦と数字のあいだを」より(「ユリイカ」2012年1月号))


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もうずいぶんたってしまったけれど、今年もキネマ旬報ベスト10が発表になって、日本映画では新藤兼人監督のさいごの作品「一枚のハガキ」、原田芳雄さんの遺作となってしまった「大鹿村騒動記」、今すごいいきおいの園子温監督「冷たい熱帯魚」がベスト3。園監督は若いときに「ユリイカ」「現代詩手帖」の投稿欄で活躍されたそうで、詩がねっこにあれば、どこへいってもおもしろいことができうるかもしれないという希望のひかり。最新作の「ヒミズ」も(まだ見てないけど)とても話題になっていますね。

で、4位が意外だったのだけど、「まほろ駅前多田便利軒」で、主演の瑛太さんと松田龍平さんのコンビも絵的にも最高にすてきだったんだけど、「まほろ」こと「町田」の、ロケ撮影がまたとってもよくて(わたしは地元がちかくて、おさないころから通ったなじみの街だから、なおさらね)、おなじくキネ旬10位の「探偵はBARにいる」の札幌・すすきのにも通じるところがあるとおもうのだけど(以前、札幌で食べたスープカレー、おいしかったな。となりの席では、学生さんが柳宗悦の民芸について語りあっていた)、「微妙に(な)都会」の、あのなんともいえない感じが、いいんだなー、いいんです。

冒頭にあげた宿久理花子さん、今年の「ユリイカの新人」に選ばれた方で(おめでとうございます)、「暦と数字のあいだ」をたゆたうこの作品、現代美術のさわひらきさんの映像作品なんかおもいだしたりしたのだけど、映像もいいし、「あったでしょいろいろあるもんそりゃそうよ」とか「なんだかんだあれしてね」とか、こういう口調・リズムの妙。

映画「まほろ・・・」の、松田龍平さん演じる主人公のひとりは、とってもひょうひょうとしていてつかみどろこがなくて、へんなしゃべり方なんだけど(ついでにいうと、わをかけてへんな走り方)、映画がすすむにつれて、じつはとっても傷ついていることとか、わかって、それでこういうひょうひょうとした口調や生き方(そして走り方・・・たぶん)になったんだなーってわかって、あんなともだちと、ほんとは語り合いたいことをやまほどかかえながら、でもいまは語らずに、タバコの煙だけぷかぷかふかしてたい(吸えないけれど)、とおもった。くるりの主題歌がまた、流れ出すタイミングもふくめて、死ぬほどよくて、その「キャメル」のあのギターアルペジオのイントロを聴くたびに、あのふたりをおもいだして、ちょっぴり泣きそうになります。
by neko-tree | 2012-02-22 22:22


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