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ドアノーエミリーアデルユゴー

 肌色の木枠 額縁の裏に
 夜があって ふくろうが啼いている
 金釦のような眼で
 古い森から辺りを見回している

 あの手紙を書いたときの
 青インクが霧となって満ちている空に
 まどろみかけた思い出のひとつひとつは
 散らばっていく
 (颯木あやこさん「写真」より抜粋(詩集『うす青い器は傾く』(思潮社)より


  *

ことし生誕100年をむかえた、20世紀を代表する写真家のひとりロベール・ドアノーが、擦過していく風景と時間とをたばねた「水の流れ」を、夜のあいだも流れつづけるその流れを、自分は止めたいなどとばかげたことをかんがえているのだ、というようなことを言っていたけれど、一枚の写真を静止した水として、それをささえる額縁の裏の森もまた、静止した夜の森だろうか。今月15日が命日の、エミリー・ディキンソンはずいぶん宛てのない手紙を書いたみたいだけれど、宛てのない手紙を書くことをちっともしなくなってしまったわたしはだめだなあ。トリュフォーの映画「アデルの恋の物語」はヴィクトル・ユゴーの娘アデルの実話をもとにした映画だったけど、アデルが手紙を書いているシーンがこれでもかというくらい連なる、あれは手紙映画だったとおもう、さすがユゴーの娘だったとおもう。
by neko-tree | 2012-05-14 20:52


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