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吉行エイスケさん「色気」「対象」「恋」「支那そば屋」「なだかな夜」(よかった詩さがしノート13)

今日(5月10日)はダダイストの作家で、美容師吉行あぐりさん(NHK連続テレビ小説「あぐり」の。日本最初期の女性美容師として名高い)の配偶者、女優吉行和子さん小説家吉行淳之介さん詩人吉行理恵さんの父親の、吉行エイスケさんのお誕生日(今日で生誕105年)。

吉行淳之介さんに私淑している私にとって、その父であるエイスケさんはいってみれば祖父のような存在であります。そして去年講談社文芸文庫から発売された吉行淳之介『詩とダダと私と』のなかに「吉行エイスケ詩篇」の章があって、ぱらぱらめくっていたら、これがなかなかおもしろい。

藤井貞和さんが去年くらいからいろいろなところで「これからまたダダイズムの時代が来る」みたいなことをおっしゃっているけれど、そんななか、吉行エイスケさんの詩や小説が再評価されたら、うれしい。

最近みじかい詩がマイブームなのでもあって、今日ツイッターでもつぶやいたのだけど、ツイッターの150文字以内でつぶやききれるような、短い詩で、いくつかぐっとくる、おもしろいものがあったので、ここでもご紹介しますね。

  「色気」

 色気が十八になっても出ない
 仕方がないで
 交尾しているハエをとって来てせんじてのますと
 急に色情狂になったので
 一、+、二、+、三
 そしたらナメクジがとろけた


淳之介さんの掌編小説「蠅」は、背中にびっしりと貼りついた蠅の幻視が鮮やかな名品だけれど、先日ルイス・ブニュエルとサルバドール・ダリの実験映画(あるいは映像詩)「アンダルシアの犬」を見たのですが、ダリの絵にもよくでてくる掌に蟻がうじゃうじゃたかっている映像の、たとえばあんなのとおなじにおいがします。

  「対象」

 君は
 DADDDDDDD
 ナムミョウホウレンボサツ
 アクビした目から
 猫の交尾 コシコキ
 八つ手グモ 出産した頭痛

 君はダダイスト
 金歯否定性欲のつむじ
 カミ切られた恋の首
 ナムミョウホウレンボサツ


これもでたらめで、おもしろい。
つぎのも。

  「恋」

 シルクハットを着て淋菌を握るな
 友禅ちりめんの腰を抱いてひげをそる男だ
 イスカのくいちがい
 恋 ララララ
 アイウエオ+イロハニホ
 嬢ちゃんの口鬚を取れ
 恋 ララララ
 アイウエオ+イロハニホ


つぎのなんかは、中也にも通ずるようなオノマトペの絶品。

  「支那そば屋」

 ピラホラフューホああまた
 ピラホラフューホ
 とほとほと支那そば屋の車が廻る
 夜二時と言うに隣から北京の場末の曲がおどる
 なむてんさぼてんピラフューホ
 ピラホラフューホ ああまた
 ピラホラフューホ


さいごにもう一篇、娘さんの詩人吉行理恵さんのお気に入りの一篇。
このリフレイン、理恵さんの詩をおもいだす。
「酔さめて」とあるけれど、
ここに引いたほかの詩篇とすこし雰囲気がちがって、
おおくを語らないなかに、熱狂のあとの、
しんみりとしずかな哀しみのようなものがみちみちていて、いい。

  「なだかな夜」

 雨も散らないにあまだれが
 ぽてりぽてりと胸になく
 今酔さめて空見上ぐれば
 まばらな木の葉をこして月が坐ってる
 一人なだかなこの夜をば
 雨も散らないにあまだれが
 ぽてりぽてりと胸になく

by neko-tree | 2011-05-10 19:32


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